August 23, 2018

任期付きの若手研究者が海外経験をしないリスク

少し古いデータですが、2011年の調査によると、大学等に勤める生命系の任期付き研究員(ポスドク等)のうち、海外での勤務経験がない人は78%にのぼるそうです(2割しか海外経験がない)※。

※ 日本学術会議基礎医学委員会:提言 生命系における博士研究員(ポスドク)並びに任期制助教及び任期制助手等の現状と課題(2011年)(http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-21-t135-1.pdf

海外経験済みの研究者からはよく海外に行くメリットが語られます。ですが、ここでは海外に行かないリスクを考えてみました。

海外経験を積まないリスクは、次の3つが考えられます。

(1) 英語に慣れないリスク
日本国内に居ると英語を使う機会が少ないにもかかわらず、英語ができないとこの仕事はできません。私が勤める国立(独立行政法人)の研究所には外国人の研究者がしょっちゅうやってきます。そのたびに彼らと英語でディスカッションをしなければなりません。英語での講義なども普通にお願いされます。さらに、定期的にある海外での学会発表も必須です。この状況は大学も同じだと思います。

(2) 他の人との差別化ができないリスク
8割もの日本人研究者に海外経験がありません(2011年)。そこを敢えて海外に出てみることで、コモディティ化(他との差別化ができずに市場価値の低下を招いた状態)が避けられ、海外経験をした、というだけで、していない人よりも希少性が出ます。

(3) 研究者の求人に応募できないリスク
研究者の国内求人サイトJRECINを見ると、多くの求人の応募条件に「海外経験有りが望ましい」とあります。一つの求人に多数の応募者が殺到すると聞きますから、「望ましい」とは「必須」と置き換えてもいいでしょう。

海外に出ることはハイリスクとも言われますが、以上のように考えると、実はリスクはローあり、研究者として生き残るための一つの戦略になり得ます。特別な事情(例えば、日本国内ですでに他を圧倒する研究業績を持っている、日本国内でしかできない研究をし続けるつもりだ、など)がない限り、海外に出て日本国内では決して得られない新しい経験を積むのが良いでしょう。

私は日本の大学・大学院を修了後、日本の民間企業や日本の大学で任期付き研究員として働き、その間に勇気を出して欧米に就職活動をし、その後アメリカ・テキサス州の医科大学にポスドク職を得てそこで約6年間働きました。

昨年、日本の研究機関の職に就きましたが、仮にこの職に就いてなかったとしてもアメリカでの経験は他の場所で生きていたと想像します。

繰り返しますが、研究の業務内容や日本人研究者の取り巻く環境を考えると、若手研究者が海外経験を積まないリスクは大きそうです。

【これを書くのに参考にした図書】
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